将棋の格言
将棋の中で良い手とされるものの中には、ほとんどが将棋の格言に沿って指された手が多いものです。
なぜなら、格言とは先人たちが将棋の研究をしてきた中での、助言として最適な言葉だからです。
将棋が強い人と言うのは、将棋の勉強をするうえで必ずこれらの格言を参考にしています。
これから将棋の勉強を始めたいと思っている方や、勉強はしているけどなかなか上達出来ないなと感じている方は是非とも覚えてみて下さい。
両取り逃げるべからず(りょうどりにげるべからず)
飛車と金の両取りに角を打たれました。
しかし、この局面では飛車と金のどちらを渡しても後手からの早い攻めはないです。
両取りを受ける為の1手を☗2三歩などの攻めの手に使えばこちらの勝勢です。
こちらの2つの駒に両取りを掛けられた場合、駒損は避けられないので、他に有効な手はないか探して別の手を指す方が良いという意味です。
両取りを掛けられた場合は、基本的には価値の高い駒の方を逃がすと思います。
そして、価値が同じぐらいの駒の時には、どちらを逃がす方が良いのかなと考えるはずです。
しかし、終盤に近付けば近づくほど両取りを掛けられた場合には、他の手を探す方が良いという事です。
なぜなら、両取りを掛けられた時点で駒損は決定していますので、どちらの駒を逃げても片方は取られるので絶対に損はします。
そして片方を逃がすのには、必ず1手掛かります。
そして相手も両取りを掛けたからと、1手で両方の駒を取ることは出来ません。
ならば、逃がす1手を相手に迫る為の別の1手に使った方が効果的になるという事です。
例外として、片方の駒が絶対に渡せない駒の場合は、そちらの駒を守る方が良いです。
両取りを掛けられたからと悲観的になるのではなく、どうせ損をするなら別の効果的な1手を探すという意識をしてみて欲しい格言です。
長い詰みより短い必至(ながいつみよりみじかいひっし)
この局面では15手詰みの長い詰みがあり、もしも自玉が必至なら、詰ましきるより他ありません。
☗3二成銀、☖同玉、☗4二金、☖2二玉、☗3二金、☖同玉、☗4一角、☖4二玉、☗4四香打、☖5三玉、☗4三銀成、☖5四玉、☗6三角成、☖5五玉、☗6四馬までです。
しかし、実践で読み切るにはかなり難しいので、長い詰みより☗5六馬として、自玉を安全にしつつ持ち駒を蓄えて詰ましやすくする方が実践的には効果的です。
終盤の寄せ合いの局面において、自玉が詰まない状態であるなら詰み手数の長い詰みよりも、手数の短い必至を掛けた方が良いという意味です。
長い詰みでも読み切れればもちろん詰ます方が良いですが、実践の時間の中ではなかなか長い手数の詰みを読み切るのは難しいですよね。
さらに、読み間違いがあり相手に駒を渡してしまった為に、逆にこちらの玉を詰まされてしまった、なんて事も起こります。
詰んでいる場合に詰みを逃がすと、結果的に負けに繋がる事もありますので、自玉の安全度は計算に入れておかなくてはいけません。
そして強くなる為には、詰みがある状態ならば詰ます方が良いというのは必要な考え方でもあります。
しかし、残り時間が少ないような局面によってはそんなに長い手数ではないのに、詰みを逃す事は上級者の方でも起こります。
終盤の寄せ合いの局面では、絶対に詰みまでを読み切る必要もなく、局面によっては必至を掛ける事も大事だということを意識してみて欲しい格言です。
敵の打ちたいところに打て(てきのうちたいところにうて)
簡単な例ですが、先手が棒銀で攻めて来た局面です。
先手から3四歩を打たれては後手陣は持ちませんので、ここでは3四が急所の地点です。
よって後手から☖3四歩と打ちます。
相手が持ち駒をそのマスに打てば有効な手になる局面においては、自分が先にそのマスに持ち駒を打つことが効果的になるという意味です。
特に相手からそのマスに持ち駒を打たれると、厳しい攻めになる局面においてはかなり効果的になります。
そして、こちらが打つ駒は安い駒でも問題ありません。
相手にすぐに取られても、相手は打ちたかった駒ではなく別の駒で取ったことになるので、そのマスに持ち駒を打てない効果は続きます。
実践において相手の打ちたいマスには、こちらにとっても有効な駒の打ち場所になっている、なんて事が起こりやすいです。
相手の攻めを受けるような局面においては、意識してみて欲しい格言です。
4枚の攻めは切れない(よんまいのせめはきれない)
この局面でどう攻めますか?
後手陣を攻略するにはと金と金の2枚では心もとないですよね。
飛車を打って桂香を拾うか、もう1枚と金を作ればかなり楽に後手陣を攻めれます。
もちろん現時点で優勢なので、飛車を加えた3枚でも攻めれると思いますが、時間に追われる中では攻めを切らされてしまうかもしれません。
相手陣を攻略する際には、攻め駒を4枚以上にしておくと、攻めが切れにくいという意味です。
その際は、持ち駒と盤上の駒を含めて4枚で良いですが、歩は数に入れないようにすることがほとんどです。
歩でも、と金になる見込みがあったり、攻めの重要な拠点となっている場合は4枚に含む事もあります。
相手を攻める上では、攻め駒の枚数が足りないなと思ったら、踏み込んで攻める前に攻め駒を補充する事が大切です。
しかし、局面によっては3枚でも攻めざるを得ない局面も出てきますので、4枚というのは目安として覚えておくのが良いです。
早い段階から攻めて、攻めを切らされる事が多い方は参考にしてほしい格言です。
不利な時は戦線拡大(ふりなときはせんせんかくだい)
後手に少し押し込まれそうな局面です。
ここで先手としては、無難な手ばかり指していても後手に押し上げられてどんどん苦しくなってくると思います。
不利な時は戦線拡大で、2筋はもちろん7筋や端も絡めて局面を複雑にしていきましょう。
こちらが不利な状況ならば、駒がぶつかる場所を増やして局面を複雑にしていけば、相手の考えを惑わせてミスを誘いやすく、逆転出来るという意味です。
こちらが優位な状況ならば、難しい事はせずに単純に攻めるのが分かりやすくて一番いいです。
有利なのに局面を複雑化すると、読み間違えて逆に不利な状況にもなるので、局面を読む力は大切です。
有利な時は一直線に、不利な時は紛れを求めるのも戦法の一つです。
不利な時には、どうせ不利なのだからと思いきるのも時には大切だと意識してみて欲しい格言です。
振り飛車には角交換(ふりびしゃにはかくこうかん)
居飛車対振り飛車の局面で後手が☖4三銀と上がった局面ですが、ここでは振り飛車には角交換で☗4五歩と突いて角の交換を迫っていけば、先手は飛車先が突破しやすくなります。
後手としてはこのタイミングで相手からの角交換は嫌なものです。
居飛車対振り飛車の対抗形で、居飛車側から角交換をすれば振り飛車側は指しにくくなるという意味です。
振り飛車側からすれば、一番いいタイミングで駒を交換していきたいものですが、居飛車側から交換されると陣形のバランスも崩れる事になります。
特に振り飛車側は角の利きで飛車先を止める事が多いので、相手の角がいなくなれば飛車先も使いやすくなります。
ただし、この格言は角交換振り飛車やゴキゲン中飛車が流行る前に作られているので、定跡の研究が進んだ現代将棋ではあまり参考にはならないかもしれません。
昔の知恵として、参考程度に考えて下さい。
名人に定跡なし(めいじんにじょうせきなし)
藤井システム公式戦の第1局目です。
詳しい変化は割愛しますが、いままでの定跡手順で行けば、居飛車穴熊の研究が進んで高い勝率を誇っていたので、堅さ負けしない為にもこちらも囲う事が当たり前だったみたいです。
しかし、その定跡を崩すように自分は居玉で仕掛けて見事に衝撃を与えたようです。
名人に定跡なしの1局です。
将棋が強い人と言うのは、研究されてきた定跡にとらわれずに良い手を指せるという意味です。
ただし、定跡は昔からの研究で最善手とされてきた変化が取り入れられているので、定跡が当然分かったうえで他の最善手を指せるという事です。
過去には、結論の出た定跡が覆されて、誰も指さなかったような手が定跡化されたなんて事もあります。
この様に将棋には定跡とされた手の他にも、有力な手がいくつもあるので、自分の発想で自由に指せるというのも魅力の一つだと思います。
強くなる為には定跡を学ぶ必要もありますが、定跡にとらわれない自由な発想が出来るのも将棋の楽しさの一つだと意識してみて下さい。
離れ駒に手有り(はなれごまにてあり)
ここで言う離れ駒とは6三の金になります。
☖2七銀成と飛車先を突破されて先手まずいように思いますが、ここで上手い切り返しがあります。
下図のように☗2三歩と飛車を叩く手です。
飛車を逃げれば☗2七金と成銀を撤去出来ますし、☖同飛とすれば☗4一角と打てば飛車と金の両取りで技ありです。
離れ駒(相手の駒の利きがない駒)がある瞬間というのは、チャンスな時があるという意味です。
離れ駒がある瞬間と言うのは、両取りを掛けたり駒取りを仕掛けたりして駒を入手する好機です。
特に離れ駒というのは、他の駒の利きがないので、ただで相手に取られる駒になります。
大駒交換した後なんかは、離れ駒を作ると大駒の打ち込みによって狙われやすくもなったりします。
攻めの局面でも、自陣を整備するときでも気を付けて欲しい格言です。
終盤は駒の損得より速度(しゅうばんはこまのそんとくよりそくど)
後手玉が☖9二玉と逃げた局面です。
先手には5二の金取りが掛かっている場面です。
ここで5二の金取りを受けるような手では速度負けしてしまいます。
8三の地点にコマを打って攻めるのも、駒を渡し過ぎると自玉が危なくなるかもしれません。
ここでは☗7二歩などとして、金を見捨てて自玉に余裕を与える事で攻めに専念する事が出来ます。
下図では後手に☗5二金と金をただで取られてしまいましたが、先手玉に迫る手ではない為後手速度負けの局面になります。
終盤の寄せ合いの局面では駒得を考えず、駒損になっても相手玉を寄せる速度を重視するべきだという意味です。
序盤~中盤に掛けては、駒得を考えていけば終盤での相手玉に対しての寄せがしやすくなります。
しかし、終盤に入ってまで駒得を意識することはなく、時には価値の高い駒を捨て駒にして1手稼ぐ事も必要になってきます。
実践では判断するのが非常に難しいですが、強い人と言うのは終盤になっても駒の損得なんて考えていません。
如何に相手玉を先に詰ますかの勝負なので、寄せ合いの局面では相手に渡しても大丈夫な駒を見極めながら指す事が重要です。
終盤戦では、駒の損得は勝負の結果には繋がらない、という事を意識してほしい格言です。
遊び駒を活用せよ(あそびごまをかつようせよ)
プロの棋譜の一局ですが、先手が☗5七銀と引いた局面です。
後手としては4五の桂馬を取ると角交換から激しくなる変化がたくさんありますが、現状は先手のみが右の桂馬を使えているので、後手は☖7三桂と右の桂馬を使いました。
難しい局面ではありますが、激しく戦いが起こる前に遊び駒を活用しようという考えです。
特に中盤戦においては、攻めにも受けにも働いていない駒があれば、活用することで好手に繋がるという意味です。
盤面ですでに働いている駒というのは、それ以上活躍しようとしても難しいものです。
そして、遊び駒というのは何もしていない離れている駒なので、その駒を活用する事が出来れば局面を有利にする可能性は高くなります。
しかし、活用するのが難しいから戦線から離れている駒なので、遊び駒の活用は難しいです。
遊び駒を活用できるようになってくれば、かなりの上達だと思います。
駒が全軍躍動すれば、かなり迫力のある将棋になるので、意識してみて欲しい格言です。
寄せは俗手で(よせはぞくしゅで)
こちらもプロの一局です。
後手が7三桂と跳ねた局面で、先手は☗3四歩と叩き、☖同銀に☗1六角と打ちました。
☗1六角と打った局面では、飛車銀両取りが掛かっていて技ありのように思えますが、☖4八飛成、☗同玉、☖2四桂と跳ねられた局面が下図になります。
こうなってみると先手には詰めろが掛かってしまっていて、さらに1六に打った角の働きが弱くなってしまいました。
ここでは寄せは俗手で☗2一角~☗3四金と打って行くのが好手だったみたいです。
俗手とは分かりやすく銀や金をベタっと打つような、筋の悪そうなダサい手を言いますが、玉を寄せる時にはそんな俗手が好手となる事が多いという意味です。
特に、攻め駒の数の利きが足りている拠点に、持ち駒を打つような数の攻めを俗手と言う事が多いです。
将棋において、妙手と呼ばれる気付きにくいカッコいい手もありますが、妙手の場合は決まり切らなかった場合は逆転の余地を与えてしまう事になります。
俗手というのは攻めが重い反面、受けるのが難しいような手が多いです。
自玉に少しの余裕があるなら、重くても切れない寄せが出来るように意識してみて欲しい格言です。
まとめ
今回は将棋の格言について紹介してみました。
今回紹介した格言は、あなたが将棋を指していく中で必ず目の当たりにする格言ばかりだと思います。
将棋に対する理解を深めて、あなたの勝率アップに繋げて下さい。
将棋というのは、学んでも学んでも終わりが見えませんが、だからこそ人生の中での良いスパイスになると思います。
あなたの将棋が上達することを応援しています。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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